2008/7/31 嘱託社員への退職金制度提案スキーム
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「嘱託社員への退職金制度提案スキーム」
多田 智子氏 コンセルト社会保険労務士法人 代表社員


こんにちは。コンセルト社会保険労務士法人、代表社員多田智子と申します。

平成18年4月から65歳までの雇用義務化が施行され、それに伴い中小企業の経営者は人材戦略、技術継承問題、ポスト不足等と多くの悩みをお持ちです。

その中でもっとも中小企業経営者の頭を悩ませているのが、今回のメインテーマである「60歳以降の賃金の決め方」です。60歳以降の賃金は年金も関係し複雑です。

しかし、今回は、
嘱託社員の退職金制度を構築することで会社にも本人にもメリットのあるスキームをご説明させていただきます。


1 フルタイム出勤の嘱託社員としての再雇用

嘱託として、従来の労働時間と変わらず勤務する場合の賃金はどう決めたらよいでしょうか。
経営者の方に「60歳以降の再雇用後の賃金を今の賃金の何%ぐらいでお考えですか?」とお聞きしますと多くの方が「8割くらいかな…」とお答えになります。

しかし、その8割の根拠はどこにあるのでしょうか?
「定年まで勤めてくれた社員だし、あまり賃金を下げすぎると生活もあるから…」とお考えでしょうか。

実は60歳以降の賃金設計を行う際にはこのような考え方は間違っています。
では、実際の例を見てみましょう。


ステップ1 シミュレーションをしてみましょう

年金 太郎さん(昭和22年10月26日生れ)
60歳到達時賃金48万円、特別支給の老齢厚生年金額120万円(報酬比例部分)とする。
再雇用後の賃金38万円(80%社長の気持ち)と26万4千円(賃金設計で55%)の比較

【60歳到達時賃金48万円】

【再雇用後の賃金】

図表1で注目していただきたいのは手取額合計という欄です。

社長の気持ちである60歳時の賃金の80%の金額と賃金設計した金額では、会社からの賃金支払いは月額で11万以上違うのに、実際に嘱託社員が手取りで受け取る賃金額は月額で1万円程度しか差がありません。
会社が支払う賃金は年間140万近く違います。
更に社会保険料、労働保険料の負担の差額まで含めると年間コストの差額は実に年間158万円を超えます。
65歳までの5年間で実に800万円近くも人件費に差がでてきます。


ステップ2 「在職老齢年金制度」と「高年齢雇用継続給付」の2つの公的制度を知る

ステップ1でご説明したように「賃金支給ベースではなく手取りベースで考える」これが賃金設計のポイントになります。
今後なるべく多くの社員を再雇用する仕組みつくりをしていくことを考えると年金併給型がお勧めであるといえます。

では、「在職老齢年金」「高年齢雇用継続給付」の2つの公的制度をご説明しましょう。

「在職老齢年金」は年金受給者が働きながら年金を受給することができる制度です。
給与と年金額によって、年金が支給停止となります。

もう一つの制度である「高年齢雇用継続給付」は雇用保険加入期間が5年以上ある社員の賃金が、60歳以後に一定率以上低下したした時にご本人に直接支払われます。

詳しく言うと60歳到達時の賃金に比べて賃金が75%未満に目減りした60〜64歳の社員に支払われるのは、賃金の15%を限度とした給付金です。
しかし、この給付を受けた場合、年金額が一部カットされます。又、60歳以降の賃金が支給限度額以上(平成19年7月より337,343円)である時は支給されません。

この2つの制度を最大限に活用すれば人件費を最小限に抑え、会社と再雇用者にとって最善の賃金設計ができるのです
。しかし、このシミュレーションは自社(手計算)ではなかなか行えませんので社会保険労務士の先生に依頼するか、従業員が多いのであれば専用のソフトを購入して行うことをお勧めします。

ステップ3 どのように説明するか?

しかし大幅な給料ダウンに、納得をされない優秀な社員の方もいるかもしれません。
会社として単に給料を下げるのではなく、2つの公的制度の内容、会社としての高齢者活用の重要性を十分に説明し理解をしてもらうことが重要になってきます。
「給料を下げられた!」と感じるだけではその後のモチベーションダウンにもつながるでしょう。

実は、60歳から65歳までにもらえる年金(特別支給の老齢厚生年金)は65歳までにもらわないと権利が消滅してしまいます。
65歳までもらわなかったら65歳以降の年金が増えるわけではありません。
従業員も会社も厚生年金保険料を長い間負担して得た受給権ですから公的制度を最大限に使うべきなのです。

しかしながら60歳以降も技術職として重要な業務をお願いする必要があり賃金が下がることに抵抗がある場合は、「2度目の退職金制度」の活用をお勧めいたします。
毎月の給与は双方にメリットのある60歳以降の賃金設計を活用しつつ、貢献度合いについては65歳の再雇用終了時に5年分の退職金を支給する契約をしてはいかがでしょうか?1年間在籍ごとに40万円の退職金額が増える制度であれば税金負担もありません。
優秀な社員をモチベーションを下げずにかつ会社の負担は少なく継続雇用できる方法です。


2 手続きの流れ

このように会社にも社員にもメリットのある制度をうまく利用するには意外に厳格な手続きが必要となります。
まず、社会保険関係ですが、定年退職し、翌日より再雇用されますと、退職した翌日に社会保険(厚生年金保険、健康保険)の資格喪失と資格取得を同時に行うことが出来ます。
これを社会保険の同日得喪の特例と呼んでいます。
通常は、標準報酬月額が2等級以上低下(上昇)して、3ヵ月後に社会保険料が変更(これを随時改定と呼んでいます)されますが、同日得喪の特例により、退職月の翌月より、社会保険料の変更が可能になります。


また、高年齢雇用継続給付についてはハローワークへ雇用保険被保険者60歳到達時等賃金証明書を添えて、申請しなければなりません。
更に原則として2ヶ月に一度、高年齢雇用継続給付支給申請書を提出する必要があります。
なお、支給申請書の提出は、初回の支給申請を除いて指定された支給申請月中に行う事が必要で、提出期限が過ぎると支給が受けられなくなります。


賃金設計は年金と雇用保険の知識が必須となります。
非常に複雑な制度ですから、一つでも間違えれば想定していた公的制度からの受給がうけられなくなります。
お金に係わることですから間違い一つで従業員の方との信頼関係にヒビがはいるかもしれません。
重要なことですので、雇用保険と年金の両制度の専門家でもある社会保険労務士の先生に相談をしましょう。
更に社会保険労務士の先生から年金の仕組みなどの説明も従業員に説明してもらえば、従業員も会社の福利厚生として社長に感謝することでしょう。


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